国内0.8%のブランド牛からできる「阿蘇小国のジャージー牛乳」
今回は、阿蘇山やくじゅう連山のふもとに位置する熊本県小国町の高村牧場を訪ねました。
自然豊かな山に囲まれて小国町内を見下ろす標高850mの場所に、100ha以上の広大な牧草地が緩やかな傾斜で広がる高村牧場。
代表の高村祝裕さんをはじめご家族も含めた8名で、約120頭の阿蘇小国ジャージー牛を飼育されています。
阿蘇小国ジャージー牛乳の歴史や、これからを見据えた活動についてご紹介いたします。
阿蘇小国ジャージーはどんな牛ですか?
人懐っこく感情表現豊かなジャージー牛
俺にばっかり、どついてくるやつもいるんですよ。もう、うっとうしいくらいに(笑)。
あいつなんて、他の人には全然どつかないのに…。俺ばっかり、べろべろなめられます。
牛舎に、木くずやおがくずを絨毯みたいに敷いた時は、ふかふかなので、喜んで飛び跳ねたりするんです。
- にじデパートスタッフそう言ってジャージー牛を温かい目で見つめるのは、高村さんのご長男の心大(むねひろ)さん。
茶色い毛とクリンとした目が愛らしいジャージー牛も、リラックスした様子で心大さんを見つめて、なんとも和やかな雰囲気です。
人懐っこく、愛嬌があるのは、ジャージー牛の性格の特長のひとつです。
日本では珍しいジャージー牛
ジャージー牛は、日本にいるホルスタインの100分の1にも満たない頭数しかいない珍しい品種なんですよ。
小国の他には、岡山や北海道が代表的な飼育地です。
- にじデパートスタッフ乳牛として世界中に広く分布していながら、日本では希少なジャージー牛。
ここ小国では、昭和30年代から、県や町役場、農協などが協力してジャージー牛を輸入して産地育成し、ホルスタインではなくジャージー牛にこだわり続けて飼育されています。
舌が肥えているジャージー牛
えさには、草やトウモロコシをせっかくブレンドしてるのに、舌でぐりぐり探って、美味しいところだけ選んで食べるんです。柿ピーの柿の種だけ食べるみたいな(笑)
ジャージー牛乳の特長を教えてください。
採れる量も少なく貴重で濃厚。お菓子づくりにも最適
ジャージー牛の体重は400~500kgくらいなんですけど、白黒のホルスタインは大きくて1トンとかあるんです。
そのため、ジャージーはミルクも採れる量は少なく、その分味も濃くて美味しいんです。ケーキやアイス、クッキーなどお菓子づくりにも向いていますね。
私はここ小国で生まれ育って、学校の給食もジャージー牛乳だったのでこの味に慣れていたんですが、高校生になって初めてジャージーではない牛乳を飲んだら、(味の違いに)びっくりしたんです。これは本当に牛乳かな?と思ったくらい。(笑)
- にじデパートスタッフ阿蘇小国で生まれ育った心大さんならではのエピソード。
ジャージー牛乳は、ホルスタインに比べて「乳脂肪分」「乳たんぱく」「無脂乳固形分」が多く濃厚で、加工品にするとコクとクリーミーさを感じられます。
岡山からついてきたジャージー牛乳好きな友人の渡辺 凱さん
ジャージー牛乳は好きですね。普通の牛乳だと物足りなく思っちゃいます。ただお腹が弱くて、飲むとお腹崩しちゃうんですけど、飲んじゃうんです。
目標は、ジャージーの牧場をもつか、ここを乗っ取るか、ですね。(笑)
凱さんは、心大さんの大学時代の友人で、高村牧場では主に搾乳を担当。
高校は「野菜を作ろう」と農業科に進学したものの、インターンシップで酪農の魅力に気付かれたそうです。
その後大学に進み、就職を考えている時に高村牧場に誘われ、「大好きなジャージー牛を育てられる」と即決で小国に。
小国ジャージー牛乳のおいしさも全国に広めたい。
毎日の食卓に、小国ジャージー牛乳もプラスしてほしい
本当は「ジャージーが一番!他の牛乳より美味しい!」と言ったほうが宣伝的には良いのかもしれないんだけどね。絶対にそうはしたくない。
他にも美味しい牛乳はたくさんあるから。
子牛を産んで、朝早くから農家さんが絞って、……そんな中で旨くない牛乳がある訳がないんですよ。
同じ美味しい牛乳で、足のひっぱり合いはしたくない。
ぜひ毎日飲む牛乳の中に、ジャージーも混ぜてもらって、いろんな牛乳の美味しさを楽しんでほしい。
- にじデパートスタッフ一貫して「他の牛乳も美味しい。ジャージーが一番という訳ではない」と言い張る高村さん。 同業者の製品も認め、ともに歩もうとする姿勢には懐の深さと温かさを感じました。
酪農全体の発展を願う気持ちは、牛たちと先代の方々への感謝から
頑張っている牛に感謝
美味しいのは、朝早くから酪農家が頑張って働いているからじゃない。
美味しいえさを選んでいるからでもない。
赤ちゃんが生まれて体がきついかもしれないのに、朝早くから頑張って絞らせてくれる牛のおかげ。
- にじデパートスタッフ衛生管理や牛のお世話で毎日忙しい中でも、牛への感謝を忘れない高村さんからは、牛に対する愛情がひしひしと伝わってきます。
歴史の重みが美味しさを生む
なんで美味しいかと言われると、先々代からの色々な人達のたくさんの苦労や、続けてきた想いが積み重なってきたからこそ。
小国の地にジャージーを連れてきて、何もない土地に道からつくって……今日に至るまでの、歴史の重みが美味しさを生むのだとと思います。うちも、先々代のおじいちゃんが、1頭の牛から始めました。
- にじデパートスタッフ阿蘇小国ジャージーは、熊本県の小国地域が町を上げて取り組んできた大事業。
雄大な自然の恩恵は受けてきたとはいえ、たくさんの苦労があっても、その美味しさを伝えたいと頑張ってきた人たちの想いが、この美味しさを生んでいるんだなと感じました。
60年以上の歴史と命を繋いでいきたい
繋いでいくことの重み
プライドとか維持だけではできることではないかもしれないですね。好きだけど、辞めたいとか、もう何もかも捨てたいって思うこともあります。でも私は、やっぱり初代のおじいちゃんを知っているし可愛がってもらった思い出もあるから、続けている。
私は、幸いにも一から始めた人の話を聞けた。一から始めたおじいちゃんが父親に譲って、父親が一気に大きくしてきたのも見ていた。今度は、自分が長男や孫にどれだけこの思いを伝わえていけるかで形は変わると思う。
これからも「繋ぐ」ことに真摯に取り組みたい。
- にじデパートスタッフこれまでの苦労が分かっているからこその、高村さんが抱える責任感の重みをひしひしと感じました。
長年抱いてきた、生まれた雄牛を処分する苦しみ
雄牛が生まれると、経費の割には利益が得られないということで、早期処分されていました。子牛が生まれるときは、メスも生まれるが、オスが生まれるのも覚悟しなきゃいけない。
だけど、メスが生まれてきたら「やったー」と喜び、オスが生まれてきたら「愕然とする」そんな自分に疲れてきたし、メスで生まれてこないと処分されるということを知らずに生まれてくるオスたちを処分されるのがすごくつらい。
早かれ遅かれ、できれば人間の口に繋がってほしい。ただ、オス牛は生後1か月でただただ処分されるだけ……。
それまで処分されていた雄牛を、宮川ファームさんが肉牛に
たまたま、宮川ファームの旦那さまがセンターに務めていて「放牧の赤牛の肉があるなら、放牧のジャージーの肉牛をやってみよう。」という話を聞いた奥さんが本格的にスタート。宮川ファームさんの活動が、酪農家の歴史を変えたといっても過言ではないかと思います。
放牧している土地は耕作放棄地。誰も手をつけない農地を、手入れして管理するので貸してくださいとお願いして、そこでジャージー牛を放牧させて、最終的にはお肉としてレストランやお店に販売まで繋げている。